『プロポーズ』

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ん、と唇を引き結んでドキドキしながらキスを待った。 …? セットされていた前髪に伊月の手が触れて、犬を撫でるみたいにわしゃわしゃと乱される。 …?? 長い前髪が下ろされたのが分かる。 それを伊月が手櫛で何度か整え、横に流して纏め始めた。 …何だこれ…キスより恥ずかしいぞ…。 恥ずかしさと、指先が触れるくすぐったさに体がぷるぷる震えてしまう。 伊月が用意したらしいヘアピンで、俺がいつもしてるように前髪を纏められているのが分かる。上手くいかないのか、何度かやり直ししていた。 「……目、開けていいよ」 そっと目を開ける。 目を閉じる前と変わらない表情の伊月を見つめ、俺は前髪に軽く触れる。 ヘアピン。前に使っていた物と同じタイプだろう。 「新しいヘアピンだな」 「あげるよ」 伊月が柔らかな目をして笑う。 この流れは予想外だ。けど、そのおかげで俺もスムーズに渡せそうだ。 「じゃあ俺からも。伊月にあげたい物がある」
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