『恋の始まり』

8/8
1470人が本棚に入れています
本棚に追加
/321ページ
「…おーぃ伊月、起きろ」 呼びかける。 こっちの気も知らないで呑気に寝やがって…と謎の怒りが湧く。 「……」 俺は口を閉ざし、伊月が座っているパイプ椅子の背もたれに片手をおいた。ぎし、と軋んだ音が鳴る。 ゆっくりと顔を近づける。伊月の目元を、目を細めて見つめる。 「…もう、知らないからな…」 何が、と自分にその意味を問いかけたい。 俺は無意識のまま、伊月に顔を近づけた。 俺の唇が、そのまま伊月のおでこに触れたーー。 「……!」 閉じていた目をパッと開いて、俺は思い切り後ずさった。後ずさりすぎて背中が本棚に打つかる。急な音に驚いた何人かの生徒の視線が突き刺さった。 だがしかし、今の俺に謝る余裕はない。 「っ、っ…」 や、やべぇ… やっちまった… お、男に… き、ききき、キスっ… 「…っいやまて、落ち着け俺!デコチューならセーフ!セーフだ!」 本棚の方に向かってぶつぶつ呟いている俺は、傍から見たら相当危ない奴だろう。 そろ〜っと背後を見る。 伊月が起きる気配はない。 「…………よし、逃げよう」 急いで逃げた。 結局その日は、2週間ぶりに1人で帰宅することになった。 夕食を食べて、お風呂に入って、ベッドに入るまで、妙なドキドキ感はおさまらない。 それどころか、健全な男子高校生あるあるな興奮状態に落ち入りそうになった為、それを回避する為に寝落ちするまで苦手なホラー動画を見まくった。 もちろん次の日は寝不足だった。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!