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「…おーぃ伊月、起きろ」
呼びかける。
こっちの気も知らないで呑気に寝やがって…と謎の怒りが湧く。
「……」
俺は口を閉ざし、伊月が座っているパイプ椅子の背もたれに片手をおいた。ぎし、と軋んだ音が鳴る。
ゆっくりと顔を近づける。伊月の目元を、目を細めて見つめる。
「…もう、知らないからな…」
何が、と自分にその意味を問いかけたい。
俺は無意識のまま、伊月に顔を近づけた。
俺の唇が、そのまま伊月のおでこに触れたーー。
「……!」
閉じていた目をパッと開いて、俺は思い切り後ずさった。後ずさりすぎて背中が本棚に打つかる。急な音に驚いた何人かの生徒の視線が突き刺さった。
だがしかし、今の俺に謝る余裕はない。
「っ、っ…」
や、やべぇ…
やっちまった…
お、男に…
き、ききき、キスっ…
「…っいやまて、落ち着け俺!デコチューならセーフ!セーフだ!」
本棚の方に向かってぶつぶつ呟いている俺は、傍から見たら相当危ない奴だろう。
そろ〜っと背後を見る。
伊月が起きる気配はない。
「…………よし、逃げよう」
急いで逃げた。
結局その日は、2週間ぶりに1人で帰宅することになった。
夕食を食べて、お風呂に入って、ベッドに入るまで、妙なドキドキ感はおさまらない。
それどころか、健全な男子高校生あるあるな興奮状態に落ち入りそうになった為、それを回避する為に寝落ちするまで苦手なホラー動画を見まくった。
もちろん次の日は寝不足だった。
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