『失踪』

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『失踪』

○五木葵.side○ 次の日は幸い休日で救われた。 2日間の時間を使い、俺は考えた。 伊月に対して起こる訳の分からない感情が、一体何なのかを考えた。 考えて。 考えて。 これはもしかしたら、“恋”という感情なんじゃないかと思った。 小学生の頃、初恋の女の子を目の前にした時の感情に似ていたからだ。 …けど、相手が男だということが、この答えを否定した。 俺が男を好きになるだって? そんなことは、ありえない…。 ○ ○ ○ 俺は今朝、いつも通りを装う為におはようメッセージを何とか送信したが、学校で本人に直接話しかけることまではできなかった。 昼食も誘えずに、今日1日を伊月に会うこともなく終えようとしていた放課後に、伊月が俺のクラスに来た時はマジで驚いた。 「一緒に帰ろう、葵」 と、平然とした態度で言った伊月に、俺は驚いた顔のまま無言でコクコク頷く。 ーーーんで、一緒に学校を出て帰宅中だ。 伊月から誘ってくれたことが嬉しくて、俺の心には余裕が生まれていた。あんなに悩んでいたのが嘘のように、もう伊月に対してギクシャクしない。 るんるん気分な俺の隣で、パーカーに両手を突っ込んだ伊月が、唐突に言った。 「妹が言ってたんだけど、今はタピオカジュースが流行ってるんだってな」 「え?ああ。つか急に何?」 「美味いの?」 「美味いよ。けどいい値段するし、俺は買わないな〜。カロリーも高いしなぁ」 「女子か」 めっちゃナチュラルにツッコミを入れられたな。 「ふーん…」 「なんだよ伊月、飲んでみたいのか?」 「並んで買うのが面倒臭い」 「あーたしかに。じゃあコンビニで買うのはどうだ?すぐ買えるじゃん。確か今、期間限定で本格的なタピオカジュースが飲めるんだってよ」 「ふーん」 すぐ飲めると聞いても面倒臭そうにしている伊月を連れて、近くのコンビニに寄ってタピオカジュースを買った。 コンビニを出たその場で、2人一緒に並んで飲んでみる。 「お、意外と美味いな。最近のコンビニってマジすげぇ」 「飲みづらいけど、面白い食感」 伊月は呟き、太いストローを咥えた。 「けど美味いだろ?」と言って笑う俺を、ストローを咥えたままジッと見つめてくる。 「え…な、何だよ?急に」 不意の攻撃(?)を食らった俺の頬は一気に熱くなる。 くっ…男相手に、かわいいって思っちまったぁあ! 「前髪、そのままにしてるんだ」 「へ?…あ」
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