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第5話 王との謁見
「王様、ニンゲン来たよ」
「ニンゲン、来たよ」
謁見の間のドアが開き、従者の双子が瓜二つの顔を覗かせる。
そこは厳かな雰囲気漂うセレネの城。
玉座に腰掛けていた魔王は暫し沈黙をした後、静かに口を開いた。
「――良いだろう、通せ」
その言葉に従い、双子の従者は二人の来訪者を王の御前へと案内する。
最初に部屋に足を踏み入れたのは、甲冑に身を包み背に外套を纏った男だった。
その数歩後ろを、全身外套で覆った女が続く。
来訪者は謁見の間を真っ直ぐ進むと、王の前で片膝を着き恭しく頭を下げた。
「お初にお目にかかり光栄です、偉大なるセレネの王。私はヘリオス第一公国カルディアの聖騎士オスカーと申します」
「遠路遙々ご苦労だった」
「この度は我々の要請を聞き入れて頂き、感謝致しております」
数十年振りに魔王の前に通された人間は、場の雰囲気や他の魔族に気圧される事なく泰然とした態度で言葉を紡ぐ。
「で、此度はいかな用件か」
「それについては王との謁見を希求した本人から」
騎士が言うなりその背後で同じく膝を屈していた女が徐に立ち上がった。
そして一寸の躊躇いなく外套を脱ぎ捨てる。
(……その姿は、まさか)
その姿に魔王は些か動揺の色を見せるが、幸か不幸かそれに気付いた者はこの場に誰一人として居なかった。
「お初にお目にかかり光栄です、偉大なるセレネの王様。私はヘリオス第一公国カルディアの皇女ステラと申します」
「皇女……なるほどな」
「はい。しかし今は訳あって皇女ではなく、カルディアの『神託の巫女』として貴国へやって参りました」
ヘリオスには古くから神族を崇拝する習慣があった。
所謂【宗教】というものだ。
そして神を崇拝するその群衆の中に、定期的に【神の声を代弁する者】という稀有な存在が現れる。
それが皇女の言う【神託の巫女】という存在だ。
民草から【聖女】【聖人】とも呼ばれるその存在は王族に次ぐ地位と権力を持つと言っても過言ではないのだが――それを二つ兼ね備えて居る存在は選りすぐりのレアケース。
長い人類史においても前例のない存在だろう。
「……その巫女が我に何用というのだ」
魔王の問いに皇女はにこりと微笑み、口を開いた。
「単刀直入に申しますと、私をあなたの妻にして頂けませんか?」
「ーーあ?」
魔王と騎士が同時に間の抜けた声を漏らし、まじまじと皇女を見つめる。
「私と結婚してください、魔王様」
「…………」
暫し凍り付く謁見の間。
不穏な空気に皇女は心底不思議そうに小首を傾げた。
「ダメですか?」
直後。
言葉を失っている魔王の気持ちを代弁するが如く、騎士の叫びが静かな城に響き渡った。
「ダメに決まってるだろ、ど阿呆!」
国の宝とも呼べる巫女に対し、聖騎士は頭ごなしに怒鳴り付ける。
先程までの威風堂々とした態度とは完全に別物だ。
「馬鹿じゃないのか!?馬鹿なんだろ!!?はい、大馬鹿決定!!!」
「何でオスカーくんが怒るのでしょう?私は貴方に求婚した訳ではないのですが」
「いきなりセレネに行くっつーから何の用かと思えば……てかお前、この事ちゃんと国王に話したのか!?」
「いいえ?私こう見えても成人女性ですので、婚姻に親の承諾は不要かと思いまして」
「親父さん卒倒するわ!てか、今俺が此処で倒れそうだわ!」
「そんな大声でガミガミ怒るからでしょう?はしたないわ」
「いきなり初対面の男に求婚する女に『はしたない』とか言われる筋合いねーわ!」
目の前で繰り広げられる口論に、魔王は暫し呆ける事しか出来ずにいた。
「大体、相手の気持ちも考えずに求婚とかないわー」
「確かにそれは一理ありますね」
巫女は「ふむ」と頷くと、魔王の顔を真っ直ぐに見つめた。
「魔王様は聖女(わたし)がお嫌いですか?」
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