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そんな色のない毎日でも忙しくしていればあっという間に過ぎ、駿斗は二年生に進級した。両親は相変わらず帰ってこないし、時々かかってくる電話でもお互い話すことは何もない。ただの生存確認のような通話。
遺伝子的には深く繋がっているのかもしれないけれど、他人と何も変わらないと駿斗は思う。
進級してすぐに行われたテストも当たり前のように満点ばかりだし、揺るぎない一位をキープできた。
だからなんだっていうんだろうと虚しさを感じながら黒板のほうを向いていると不意に背中をつつかれた。
「なーなー」
囁くような呼び声に駿斗は振り返った。見るとクリックリと大きな瞳が印象的な男子が好奇心いっぱいの視線を駿斗に投げかけている。確か女の子みたいな名前の奴。なんて言ったっけ。
新しいクラスメイトの名前を思い出そうとしていた駿斗に、屈託のない表情を浮かべた質問が飛ぶ。
「テストどうだった? 真藤って今まで一番以外とったことがないってホント?!」
「は?」
「嘘だよなあ? そんな奴いるかっつーの」
結構不躾ながら嫌な気がしないのはカラッと晴れた日のような温かさを感じたからなのか。
いつものように謙遜を混ぜてはにかむようにごまかしてもよかったけど、何故か嘘をつけなかった。
「ほんとだよ」
思わず答えてしまうとその男子は目を見開いて「まじか!!」と叫んだ。ただでさえ大きな瞳の瞳孔がキラキラと輝いた。
「すげー。頭のいい奴って本当に存在するんだ!」
ああ、思い出した。
美味しそうな名前だなって思ったんだった。桃園理津とか言ったっけ。いつもニコニコと楽しそうに笑い、常に人の中心にいて毎日が楽しそうだ。
駿斗と対照的な人間。
その声が大きかったからか、周りにいた生徒たちもザワザワと駿斗を取り囲んだ。
「どうやったらそんな神業ができんだよ」
「何点取ってんだ?!」
「都市伝説化と思ってたわ」
自分が返された答案用紙と学年順位表を片手に物珍しそうに駿斗を見る。
「え……普通に勉強していればわかる問題だろ……?」
何がそんなにおかしいのかわからず、首を傾げた駿斗に理津は何故か得意そうな顔をし「まー真藤なら当然って感じだよな」と答えている。
「いっつも真面目に勉強してるっぽいし、頭の良さがにじみ出てるっつーか」
「はー? つかなんで理津が偉そうなんだよ」
同級生が理津の小さくて丸い頭を小突いた。
「イテっ」
「そういう理津はどうなんですかー?」
「聞くなっ」
賑やかに話題は理津に代わっていった。
当たり障りなくうまくやっている駿斗と違い、理津のそばにはいつも楽しそうな笑い声が響き、彼を好きな人たちが集まっている。
その輪から外れ切らないようにニコニコと笑みを浮かべながらさり気なく距離を置くと、ふと理津は真顔で駿斗に向き直った。
「俺のことはどうでもいいんだよ。真藤はそんなにいい点数を取ってんのに嬉しそうじゃないよなあ。それだけ良かったら家で堂々とできんじゃん」
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