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雨は何日も続いた。
冷え切った空気が駿斗を蝕んでいく。
放課後の誘いも断ってバイトと家の往復だけの日々を送った。
12階から見る景色はどんどん駿斗から人間らしさを奪っていくようだった。心も冷え切って助けを求めることもできない。
一人で膝を抱えてただ流れる雨を眺めていた。
自分がどうしたいのかよくわからなかった。
理津を好きになって、思いが通じ合って、幸せな気持ちに満たされていたはずなのに、なぜ今になってこんなに足をすくわれているのか。
こんなに理津に会いたいのに、会いたくなかった。会うのが怖かった。
一人きりの部屋は孤独を加速させていくには十分だった。
ふいにカバンにしまったままだったスマホが音を立てた。見ると理津だ。迷って、通話ボタンを押す。
「あ、駿斗? 何してた?」
明るい太陽のような理津の声が耳から体の中に入ってくる。じんわりとそこから温められるようでほっと息をついた。
「外を見てた」
「外? 雨すごいな」
「うん」
「うちさーめっちゃボロいじゃん。屋根を打つ音がうるさくてすごいんだよ。しかも雨漏りも発見されてもう大変」
「それは大変だな」
今すぐにでも会いに行きたい。
陽だまりのような存在を抱きしめて、駿斗の抱える杞憂を吹き飛ばしてほしかった。だけどこの孤独を理津に背負わせたくはない。
「なー最近元気なさげじゃない? どうした?」
通話口から心配する理津の声が聞こえる。こうやって駿斗を思ってくれる理津の優しさをよくわかってる。だから甘えたくない。
「んー? そうでもないよ。最近寒くなってきたからかな。勉強もしなくちゃいけないしね」
今度こそ一流大学に進学させるつもりの両親。日本の大学には期待をしていないからと今頃海外の有名大学への手回しをしているだろう。
理津と離れるつもりはない。だから両親に知られないまま姿をくらまし、ひっそりと自力で大学へ通う。その為に今は着々と準備を進めているのだ。
駿斗のこの計画のことは理津には伝えていない。決まったら今度こそ話そうとは思っているけど、今はまだ言えない。
「うひー。勉強なあ、やばいよもう。わけわかんないの」
理津はそんな駿斗の逡巡には気がつかず、情けない声を上げた。
自分のきょうだいたちが可愛くて仕方ない理津は小学校の先生になりたいという。その為に教育大の受験を控え勉強もかなり大変だと頭を抱えている理津を思い出したら、ほんの少し力が抜けた。
「理津ならできるよ」
「そっか? 駿斗に言われるとそんな気になるわ、さんきゅ」
今、きっと照れ臭そうに笑った。理津のことならなんだってわかる。駿斗は抱きしめるかのようにスマホを持つ手にギュっと力を込めた。
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