福井さん

うちのオフィスはフリースタイルで自分のデスクは決まっていない

その日の気分でどこに座って仕事をしてもいい

俺は集中してやりたい仕事があって早朝出勤してここと決めたデスクでやっていた

すると、福井さんが出勤してきて、俺のすぐ隣のデスクにカバンを置いた

えっ？こんなに空いてるのになんで俺の横に来るんですか？
やだな、福井さんは俺のコトが好きだからな
困るよ仕事に集中したいのに

福井さんは40代後半で高学歴、独身、彼女もいたことがないかも知れないと噂されている
ただ、資産家で働かなくても食えるらしいけど働かないのもなんだからみたいな理由で仕事をしている人だ

俺は羨ましいけど羨ましくない

福井さんの唯一の趣味はパチンコらしい

今までのパチンコの損得はちょっと損しているくらいらしいからパチプロほどの腕はないみたいだ

で、だ

なんで俺が福井さんを嫌いなのかと言うとだね

福井さんは俺を好きなのはさっき言ったけど別にゲイなわけじゃないんだ

ただ単に人間として俺が好きなんだって

福井さん曰く

会社の人はみんな冷たいし毒を吐くやつばかりだけど中村くん(俺のこと)は僕の話を聞いてくれるし、他人の悪口や噂話もしないで仕事を一生懸命するだろ、だから君は信用できるんだ

だ、そうだ

じゃあ、俺が福井さんを好きかと聞かれれば人生、上手くいかないもんでさ、これが嫌いなんだよな

俺が福井さんを嫌いな理由はさ、福井さんはパチンコで勝った時、お金を品物に替えて誰かにあげるのが楽しみみたいなんだけど

でも、お菓子じゃない

決まって電池！

単一、単二、単三、単四、たまにボタン電池

何故、電池？！

福井さんの究極の選択として、男女関係なく誰でも使う、趣味も関係ない、いくらあっても困らないなどなど唯一無二なんだそうだ

それでさ、当てた翌日、電池を会社に持って来ると、俺のデスクに積んでいくんだよ、電池パックを

もう、結構ですからって丁重にお断りしたんだけど遠慮してると勘違いしてるみたいなんだよね

他の同僚から
仲良いねとか、デキてんのか？とか揶揄されてんだよ

(デキてねーよ)と、心の中で
そんな、まさかぁそんなことあるわけないじゃないですか！という俺

被害を受けてるわけ
だから嫌いなんだよ

電池も助かる部分も確かにあるよ
あるけど、人間て、限度ってもんがあるだろ

うず高く積まれた電池、そのまんまに出来ないだろう

だって、俺専用のデスクじゃないからさ

おぉぉぉ〜い、福井さぁーん、気づけ！

会社に置いてきちゃおうにも女子社員に勝手に混ぜないでくださいと、叱られたし、他の同僚達も初めは持って行ったけど次第に要らない、おもてーから(重いから)と、なっていく始末

福井さん、聞くところによると、バレンタインデーのお返しも電池だったらしいぞ

俺に女子へのお返し何がいいの？って聞いて来たからクッキーとか、チョコレートがいいんじゃないですかと教えてあげたのにさ

もう、自宅にも溢れるようにある電池

行きつけの飲み屋にも配ったよ

俺も諦めムード満々になっていたある日

あの・・・

あの・・・

あの最大の災害・・

東日本大震災がきたんだ

幸い会社も俺ら社員も無事だったが何時間もかけて徒歩で帰宅したのは辛かった

しかしライフラインの復旧には時間がかかった

しばらくの間、会社は休みということで自宅待機に
なった

自宅のアパートもなんとか無事だった

俺は日頃から水は備蓄していたから暫くは大丈夫だった

その時、灯に懐中電灯を代用したが久しぶりに使う懐中電灯は電池が切れていた

ラジオも電池式充電器も

思い出したのが福井さんの電池だった

とても助かった

オーバーではなくて、天の助けだと思った

迷惑していた福井さんの電池は俺の命を助けてくれたんだ

でも、あとで思い出したがその日、福井さんは用事があると言って午後から半休して帰った

なにをするために半休したのかは、わからない

あの日から福井さんと会っていないんだ

だけど福井さん

福井さんはきっとパチンコの新台を求めて関東あたりにいますよね

もしかしたら、みんなに内緒で彼女ができて、二人で旅行にでも行ってるんですよね

ねぇ、福井さん

福井さん、そろそろ帰って来てくださいよ

電池無くなりそうなんですよ

ねぇ〜福井さん

福井さん