第1章 胸騒ぎ

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第1章 胸騒ぎ

 Hold on to people who give you much money ,I say ,you don’t have to keep on dreaming. That’s right ,just to be fine.・・・  僕は洋一郎の作ったポップで少し毒のある歌詞が大好きであった。  いまでもこうして40歳を過ぎたオッサンでもサビをリフレインしてニンマリ口ずさんでいるのだ。  僕は、イギリス経験主義の哲学や思想、とくにD・ヒュームやJ・ロックを専門とし、もう10数年。  喰っていけるまで熾烈ではあったが僥倖に恵まれて今は東京の某女子大でなんとか教鞭をとりながら暮らしている。 (ピロロロロ、ピロロロロ・・・)電話の音が鳴る。 「はい、第8教務室、高橋です」僕は電話に出る。 「あ、彰浩? 俺、兄ちゃんだけど、今時間、大丈夫か?」電話は兄からだった。 「あん?兄ちゃんか。なにも用事なら、夜、家にでもかけてくれればいいのに」と僕は急に安堵してぞんざいな口調になったが、わざわざ急ぎでここにかけてくることを逡巡して、なにか胸騒ぎがした。
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