完璧なアリバイ

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「この暑いのに手なんか繋いで、最近の中学生はませてるな」 後ろから咎めるような声がして、光一郎は手を解こうとしたけれど、私は意地になって繋いだままにした。 ゆっくり振り返ると、やっぱり小岩井という若い警察官だった。巡査だか刑事だか何だか知らないけれど、嫌味ったらしいことを言ういけ好かない男だ。 「こんにちは、ご苦労様です。恋人なんだから手ぐらい繋いだっていいじゃないですか」 私の言葉に動揺したかのように手の中の光一郎がピクッと反応したのを、ギュッと握って誤魔化した。 こんな事件さえ起きなければ、光一郎は一生私の恋人になんかならなかったはずだ。ここに引っ越して来て三歳のときからお隣さんだったから、私のことは妹のようにしか思っていない。そんなことは十分承知していた。 「恋人ねぇ? 君たちの友達に聞き込みしたけど、誰も君たちが付き合ってたことは知らなかったよ。おかしいよね? 今どきの子はSNSで自慢したりするもんじゃないの?」 誰も知らないのは当然だ。付き合っていなかったんだから。 小岩井が私ではなく光一郎の顔を覗き込むように尋ねたのは、光一郎の方が落としやすいと見たせいだろう。そういうところも腹が立つ。 「自慢するかどうかなんて人それぞれだと思いますけど。小岩井さんは彼女の自慢話を吹聴するんですか?」 小岩井の彼女になるような物好きな女性はいないだろう。たぶん彼女いない歴=年齢の寂しい男だ。そう踏んだ私が問いかけると、案の定、小岩井はグッと答えに詰まった。 「どうしてそんな聞き込みをするんですか? 父さんの死は事故死なのに、まだ僕を疑っているんですか?」 私の手を握ったまま小岩井に詰め寄った光一郎は、涙目になっていた。 まだ中学生の光一郎を父親殺しの犯人だと疑うなんて本当に酷い。光一郎は無実なのに。 それは私が一番よく知っている。彼のアリバイを証言したのは私なのだから。
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