完璧なアリバイ

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警察官たちが【テラスハウス・リバーサイド】の敷地から完全に出て行くのを、光一郎と二人で見送った。本音を言えば中学生の通学リュックはバカみたいに重いから、一刻も早く家に置きに行きたかったけれど、しっかり見届けないと安心できない。 黒いピカピカの車が走り去ると、魔法が解けたみたいに気弱になる自分がいた。警察という公権力を振りかざす大人に対して、必死に虚勢を張っていたのかもしれない。 「うちに来る?」 ふいにかけられた言葉に、「ああ、うん」と気の抜けた返事をした。 テスト期間中だから部活はない。いつもよりも早く帰れたのだから家でマンガを読もうと思っていた私は、光一郎の意図が読めなくて隣の彼を見上げた。 「明日の数学、全然わかんねえから教えてほしいし」 「そっか。いいよ。じゃあ、着替えたら行く」 「おう」 光一郎に手を振って家の鍵を開けて入る。わざと動作をゆっくりにして逸る気持ちを光一郎に悟られないようにしたけれど、たぶん彼は私のことなんか見ないでさっさと自分の家に入っていることだろう。 制服を脱いでTシャツと短パンに着替えて、トートバッグに明日の試験科目の教科書とノートとワークを突っ込んだ。 玄関でサンダルを突っかけてから、思い直してトイレに入る。光一郎の家でトイレを借りるのは恥ずかしい。音とか匂いとか。 洗面所で手を洗いながらピンとはねた襟足の髪を撫でつけてみたけれど、すぐにまたはねてしまう。さっきまで一緒にいたんだから、今さら寝癖を直そうとしたって無意味だ。 それでもリップを塗り直したのは、ちょっとでも光一郎に可愛いと思ってもらいたいから。
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