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光一郎の手が私の胸に伸びてきたので、ペチッと叩き落とした。発達途中の私の胸ではきっとがっかりさせてしまう。
「ほら、勉強するんでしょ?」
私は起き上がって座り直したのに、光一郎はモゾモゾと布団の中に潜り込んでしまった。
「光一郎?」
「千里。どうして恋人だなんて嘘吐いたんだ?」
火照っていた顔をひんやりとした手で挟まれたみたいに、一瞬で熱が引いた。
さっきまでの甘くて苦しいキスは何だったんだろう。どうして光一郎は急にそんなことを言い出すんだろう。今まで戸惑いながらも、“恋人”ということで話を合わせていたのに。
「どうしてって……」
「あの日、千里は父さんが死ぬことを知ってたのか?」
「……何それ。私に予知能力があるとでも?」
「じゃあ、なんで映画に誘ったんだよ? 今までそんなこと一度もしたことなかったのに」
「それはお母さんがチケット二枚もらったからって」
「誰から? おばさんは誰からチケットをもらったんだよ? そういうこともちゃんと警察は裏を取るんだよ。嘘なんてすぐバレるんだからな!」
布団からガバッと顔を出した光一郎は、涙目になっていた。怒ったり興奮するとすぐ涙目になるのは光一郎の癖だ。
「本当のこと、聞きたい?」
私は光一郎の方を向いて、静かに尋ねた。
嘘はすぐにバレる。でも、真実に紛れ込ませれば、バレないかもしれない。
「聞きたい。俺だけが何も知らないみたいでイヤだ」
意外にも光一郎は何かを感じ取っていたみたいだ。もしかしたら、このニンニク臭い布団の中で一人思い悩んでいたのかもしれない。
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