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「あのね、チケットはお母さんが買ったの。もらったっていうのは嘘。でも、その嘘は光一郎にだけついた嘘で、警察には本当のことを話してるから大丈夫」
「どういうこと?」
「お母さんは私のためにチケットを買ってくれたの。私がずっと光一郎のことを好きだって知ってたから、『コウくんを映画に誘って告っちゃいなさい』って背中を押してくれたんだ。お母さん、警察には『娘たちのためにチケットを買ってプレゼントした』って話してた。『コウくんはお母さんが入院して寂しい思いをしてたから、励ますつもりもあった』って。その気持ちは本当だと思う」
「ちょっ待っ。ずっと好きだったって、千里が俺を?」
真っ赤な顔で訊き返す光一郎に、コクンと頷いた。
「うん。ずっと好きだった。映画見終わった後に告白するつもりだったんだけど、おじさんの遺体が見つかったって連絡が入ったから、それどころじゃなくなって。警察にアリバイを訊かれた時に咄嗟に恋人だなんて言っちゃったのは、ただのお隣さん同士で映画を見に行ったなんて不自然で信じてもらえないような気がしたから。ごめんね。変な嘘ついて」
告白なんて、案外呆気ないもので。
好きだという一言が言えなくて、何年もウジウジしていたのが嘘みたいだった。
「え、じゃあ、千里は本当に俺のことが好きで、映画に誘ったってこと? 父さんの死とは関係なく?」
「やだな。私が殺したと思ってたの?」
「いや。千里だって俺と一緒にいたんだからアリバイは完璧だけど……」
一瞬考え込むように眉間にシワを寄せた光一郎は、すぐに「疑ってゴメン」と頭を下げた。
そう。私のアリバイも完璧。
映画館のあるショッピングモールに車で私たちを連れて行ってくれて、映画が終わるまでウインドウショッピングしていたお母さんもモール内の防犯カメラに映っているからアリバイがある。
切迫早産で入院中の光一郎の母親にだって、夫を殺すことは不可能。
疑われそうな人間のアリバイは完璧。それがこの計画の最重要ポイントだった。
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