【000】エピローグ

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 地上へ獣士を逃がしたという前例をなくし、さらに「タイガー」の商品価値を認めていた新オーナーの阿窟(あくつ)が連れ戻しに現れた時、本当はぶちのめして逃げようと考えた。  しかし阿窟の背後から現れた小柄な秘書を見た瞬間に、もう逃げられないと戦意を喪失してしまったのである。  人生の中で闘わずして決して勝てないと敗北を認めた唯一の男、最強の獣士モズがリングを降りて、まさか新オーナーの秘書になっていようとは……。  桜場は「あの作業員から雅斗(まさと)の話を聞かされなかったら、アイスドッグだけ脱走させて俺はあきらめて地下に残ったかもな」と思いながら改めて雅斗を見つめた。 「ありがとう。あんたのおかげで俺は地上に戻って来れたよ」 「え?」  桜場の素性を何も知らない雅斗が、思わず聞き返す。 「いや……それじゃあ、元気でな」  新たな自分の生き方を見つけた雅斗をこの目で見ることが出来て本当に良かったと安堵しながら、桜場が背を向けた。  しかし桜場が人混みに紛れたらもう二度と会えないと直感した雅斗は、考えるよりも先に言葉が飛び出していた。 「まっとうな生き方なんて、やっぱり俺には無理だったんだって、どうしようもなくミジメで孤独だった時あなたに助けられて、あれからずっと会いたいって思っ……あ、えっと、せめて桜場さんが戻って来たお祝いをさせてください!」
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