【15】お仕置き

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 アザミが魅惑の低い声で尋ねると、青年は「え!よろしいんですか?私が着替えをお手つ……いえ、しっ、失礼致します!」と、あたふたしながら支配人ルームから逃げて行ってしまった。 「ここの連中は優秀なくせに遊び心ってモンがねぇな。いや、オーナーである阿窟(あくつ)が怖いんだろうな。ったく、どんだけ恐怖政治やらかしてんだよ」  洗面所で眉やあご髭を整えると、手早くシャワーを浴びて身支度を始める。  先ほど渡されたテーラーバッグにはスーツ、ワイシャツ、ネクタイ、装飾品、靴の他に下着まで揃えられていた。  着替え終えてから改めて姿見に全身を映して眺めると、単に一流のブランド品が用意されたというのではなく、アザミのダンディな色気を最大限に引き出すために髪や肌の色、体格などまで熟慮した上で選ばれた組み合わせなのだと分かる。 「ふぅん……ひもパンは完全に阿窟の個人的な趣味だろうが、全体のコーディネートはやたらとセンスが良いじゃねぇか。まぁ、血生臭い金で買ってさえいなけりゃの話しだがな」  ゆるくウェーブのかかった黒髪を両手でざっくりと後方へ流して仕上げたところで、再び呼び鈴が鳴らされた。  迎えに来たのは小柄な秘書であったのだが、アザミが扉を開けた途端、台詞を忘れてしまった役者のようにポカンとした表情になる。 「よぉ、久しぶり!この上等なスーツ、さっき阿窟さんからだってプレゼントされたんだけどさ、結構かっこいいだろ……ん?秘書さん?どうしたんだい?もしかして俺には似合ってない?」  アザミの明るい声が不安に曇り始めてしまったことに気づき、ハッとした表情になった秘書が慌てて()びた。
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