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【01】消費期限の愛
郊外であり最寄り駅からも離れているこの一帯は、午後10時ともなるとかなり暗く、時折自動車は走行するものの歩行者の姿はほとんど見られない。
住宅が密集していない土地を贅沢に使って建設された高級マンションは誰にでも住める価格ではないが、都心との行き来がしやすい主要道路の近くという立地の良さや、セキュリティに特化した造りであることなども含めて充分な付加価値を備えている。
そんなマンションの地下に位置する、世界の名車を集めたショールームと錯覚しそうな居住者専用の駐車場に、一台のオフロードバイクが軽快な排気音を立てて進入して来た。
周囲でボディを輝かせている車たちと比べるとやや汚れていて場違いのようにも見えるが、特に怪しい動きもせずに各部屋に割り当てられたスペース内へきちんと駐車される。
ずい分と脚の長いスリムなライダーがシールド付きの黒いヘルメットを脱ぐと「96・アザミ班」の班員、ヒドウの類い稀ともいえるクールな美貌が現れた。
ヘルメットを小脇に抱えると、エレベーターは使用せずに階段で地下から五階まで六階分を一気に駆け上がる。
息を切らせることもなく廊下を進み、たどり着いた自宅玄関のドアの鍵を自らの手で開けると、室内は真っ暗で静まり返っていた。
「…………」
照明をつけると見慣れたはずのフローリングのリビングダイニングが、記憶力の良いヒドウの目にも普段より広く感じられてしまう。
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