【01】消費期限の愛

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 元々この部屋の(あるじ)でもあり現在同棲中である15歳年上の恋人、アザミとは残念ながらスケジュールの関係でしばらく会うことが出来ない。  最近ヒドウは、以前アザミが同棲していた恋人と別れたあと誰にも自分の住処(すみか)を知らせず、さらにほとんど帰宅もしなかったという気持ちが分かるようになってきた。  かつて警察官であった頃は単身で生活していたのだが、当時と現在では帰宅した際の感覚がずい分と違うのだ。  きっとアザミは心から愛する相手がいなくなった時に知った、二人で過ごした幸せな(ぬく)もりが感じられない寂しさを、もう二度と味わいたくはなかったのだろう。  今回はいつもに増して危険度の高い単独任務だったため、心身ともにかなり疲弊(ひへい)した状態で帰宅したヒドウは、事故防止という点からも今夜は早く眠ってしまおうと、どこにも立ち寄らずに真っすぐマンションへ帰って来た。  帰宅した安心感からか今になって小腹が減ってきたのだが、アザミとは互いにいつどうなるかも分からない身であるため、必要な時に必要な分を買っている冷蔵庫の中は空に等しいはずだ。  しかしミネラルウォーターは冷やして常備しているので、とりあえずそれで満たすかと冷蔵庫の扉を開けたヒドウは驚いた。  てっきり水以外は何もないと思っていたのだが、ヒドウの好きな海外の銘柄の瓶ビールが3本と、銀色の仕切りの付いたトレイにサーモンやチーズ、アボカドサラダなど彩りも鮮やかに盛りつけられた豪華なオードブルが冷やされていたのだ。
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