【01】消費期限の愛

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 オードブルはアザミの気に入っているワインの店で販売されているもので、消費期限を見ると今日までとなっている。 「そういうことか……」  勘のいいヒドウは思わず呟いた。  班長であるアザミは、班員たちの任務がすみやかに完遂(かんすい)し帰還出来た場合の予定日を当然すべて把握している。  つまりこの消費期限には、アザミなりの「願掛け」のような意味が込められていたのだ。  危険な任務から何ごともなくヒドウが帰還し、この部屋でくつろぎながら晩酌できますように、と。  きっと現在関わっている任務の途中でアザミが時間を調整し、マンションに立ち寄ってヒドウのために準備しておいてくれたのだろう。  そんな想いを理解した瞬間「おかえり、ヒドウ」と満面の笑みで自分を迎えてくれる、アザミの声が聞こえた気がした。  ここは紛れもなく愛する人と共に暮らす自分の家なのだと、かつて味わうことのなかった温かい気持ちを改めて実感できたヒドウは、アザミへの想いで胸がいっぱいになってしまう。 「班長……ただいま戻りました」  冷蔵庫の扉を閉めた後、しばらくその場に立ち尽くしていたヒドウであったが、せっかくアザミが用意してくれたのだから晩酌をゆっくり楽しもうと先にシャワーを浴びることにした。
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