【01】消費期限の愛

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 人通りもさほど多くはなく何かを販売しているようにも見えないため、誰もが「自分の日常とは関係がない」と素通りして行く地味な色をした四角い事務所風の建物が、警察組織と「96」を繋ぐ連絡施設として使われている。  今回に限らず任務完遂後に必要な書類を提出しようとヒドウが事務室を訪れると、しばらく騒がしくなってから静まり返るのがお約束となっていた。  まずヒドウが登場すると女性陣の歓声が上がり、どんなに忙しい状況であっても「私が対応する!」「いえ、こちらで!」と担当争奪戦が起こる。  やたらと気合いの入ったジャンケンによって決着がつくと、敗北した職員たちはロマンチックな恋愛映画から抜け出したような美しい青年をため息まじりに鑑賞する目の保養タイムに突入するのだ。  ちなみにそんな部下たちの様子を見て、 「これがいつもストイックに仕事をバリバリこなしている事務職の精鋭たちとは……まぁ、たまにはこういうイベントも必要なのかな」  と、苦笑いしている有能な室長はアザミ派である。  ヒドウとアザミが恋人同士であることは、アザミ班の班員たちとごく一部の関係者にしか知られていなかった。  必要書類の提出が終わって丁寧に礼を告げたヒドウが背中にハートの矢を大量に射られながら事務室を出ると、廊下の途中に作られた小スペースで四名の若い男性職員たちがコーヒーカップを片手に雑談していた。
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