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「まぁ、仮に噂じゃなくて事実だとしても、相手なんて選び放題に決まってるさ。俺たちみたいな下っ端はお呼びじゃねぇだろ」
確かにそれもそうだなと、他の面々がつまらなそうに納得する。
そんな青年たちの手前で廊下が直進と右折に分かれていたため、ヒドウは彼らの横を通ることなくその場を離れた。
以前のヒドウだったら、最愛の恋人を性的な目で見られていることについて相当不快に思ったはずである。
しかし今回偶然聞こえてしまった会話について、それほど気にならなかったのには理由があった。
かつて本気の恋に臆病になってしまったアザミが公私問わず無節操な遊び人として生きていたのは事実だが、新たに班員となったヒドウと愛し合うようになってからは任務外の夜遊び、火遊びをすべてやめた。
さらにずっと目を背けていた恋愛の古傷と向き合う覚悟を決めたのも、ヒドウとの今後の関係についてアザミなりに真剣に考えたからだ。
そしてアザミが今まで誰にも教えなかった自宅へ唯一招かれるようになったヒドウは、現在合い鍵をもらって同棲している。
つまり調子の良い「愛してる」という言葉だけではなく、アザミが自分への愛情を行動で誠実に示し続けてくれたことによって、ヒドウから彼への愛情も以前と比べて周囲の雑音などどうでも良いと感じられるくらい深まっていたのだ。
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