【01】消費期限の愛

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 必要な書類提出も終わり今回の任務は完全にヒドウの手を離れたのだが、アザミの身が心配なため、せっかくのまとまった休暇もあまり嬉しい気分にはなれない。  そこで自主トレーニングとして山にこもり、野営しながら愛車で悪路を走る練習でもしようかと考えていた。  一応休暇中の自分の居場所を組織に報告しておいたほうがいいだろうと思い、班長であるアザミが不在のため、さらに上官にあたる片岡警視長を探す。  メールでも構わないのだが、今日は連絡施設に来ているので顏を見せて直接伝えようと思ったのだ。  ただし非合法組織「96」の創立メンバーの一人であると同時に「96」と警視庁の橋渡し役でもある重要人物の片岡は、アザミも一目置く切れ者でありながら何もかもがあまりにも地味すぎるため、すぐそばにいても気付かなかったり素通りしてしまう可能性が高い。  片岡との付き合いが長いアザミからは「オヤジに用事がある時は、幻の生物ツチノコを見つけるくらいの注意力が必要だ」というアドバイスを受けていた。  アザミの言葉に従ってヒドウが五感を研ぎ澄ませながら廊下を進んで行くと、前方から春野優羽(はるのゆうは)がやってくるのが見えた。  女性にも間違えられそうな華奢(きゃしゃ)な肢体と柔らかな栗色の髪、癒しの笑顔が周囲を和ませてくれる22歳の青年である。  そのような外見とは裏腹に芯が強い彼は、カフェの経営を目指して働きながら努力を積み重ねていたという過去もあり、機転や気配りに()け仕事をよくこなす優秀な秘書として現在は片岡をサポートしていた。
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