【01】消費期限の愛

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 もしかしたら、付き合っていた当時に二人で買い揃えたライターを、今でも互いに大切に使い続けている……?    かつて同棲までしていたアザミとゴウガミが破局したのは、単に恋愛感情が冷めたという理由ではなかったのだ。  そのため頭の中ではもう過去の話だと理解しているヒドウだが、実力と人望を兼ね備え階級も上であるアザミの元彼への対抗心を完全に拭い去ることだけは難しかった。  それでも何があってもアザミは自分を愛してくれていると信じていただけに、愛用しているライターがゴウガミと同型であったという偶然と呼ぶには無理のある事実を知ったショックは大きい。  ヒドウには「本当はゴウガミ班長への未練があるから、アザミ班長は今でもあのライターを使い続けているのでは……」と、思えてしまったのだ。  再び喫煙室の中を覗き込む勇気はなかったが、一度でも見たり聞いたりすれば完璧に記憶できるヒドウの場合、その必要はなかった。  長年の努力の末に身に付いた、この特殊とも言える能力によって「96」にスカウトされ、アザミと出会えたと言っても過言ではない。  しかし今だけは、ヒドウは自分の記憶力が完璧であることを悔やみながら、現実から逃げるかのようにその場を去ったのである。
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