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【02】絶望とスーツの男
もうどれくらいの時間、こうやって汚れた川を見下ろしているんだろう。
雅斗が住むアパートの近所を流れている幅のある川に架けられた橋の上で足を止めた時は、まだ周囲は多少明るかった。
緑と茶色を混ぜたように見えていた淀んだ水面は時間の経過と共に黒へ変化し、現在は川添いの歩道や橋の上に設置された街灯の白い光をキラキラと反射させている。
しばらく雨が続いたせいか増水して流れが早くなっており、今まで気にしたこともなかった川の音がザアザアとやけに大きく聞こえた。
雅斗には幼い頃とても可愛がってくれた年の離れた兄がいたのだが、両親とは不仲だったらしく家を出たまま戻らなかった。
そして雅斗が小学生になって間もなく、父親が飲み屋で知り合った女性と深い関係になり、彼女のマンションでドラッグ吸引後ベランダから転落し他界。
「一時だから我慢してね」と施設に雅斗を預けた母親は、相談に乗ってくれていた親切な男性とそのまま行方をくらましてしまった。
もう誰も信じられないと道を外れ始めた雅斗であったがドラッグだけは断固として関わらなかったため、彼の過去を知らない悪友たちは「空気読めねぇな」「もう仲間じゃねぇから」「二度と声かけんなよ」と散々罵倒して離れて行った。
そんな彼らがドラッグパーティーを満喫した後、ハイテンションなドライブへ繰り出してガードレールを豪快に突き破り、車を合同の棺桶に変えたと雅斗に教えてくれたのは、晩飯のために入ったラーメン店の天井近くに設置されていた小型テレビであった。
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