575人が本棚に入れています
本棚に追加
「……え?」
「俺のせい」ではなく「俺のおかげ」と言ったのか?と桜場が不思議に思っていると、雅斗が興奮しながら一気にまくしたてた。
「あの会社をすぐ辞めてなければ、きっと身寄りもなく警察に関わりづらい俺は犯罪を手伝わされた気がします。そのあとアルバイトで採用してくれた『トクシンヤ』ってスーパーマーケットで頑張ってたら、店長が正社員として働いてみる気はないかって声かけてくれて!それで……これっ」
ショルダーバッグの中から銀行名の入った封筒を取り出し、桜場の目の前に両手を添えて差し出す。
「これ、預かってたキャッシュカードと貸してもらった生活費です。まだ全額じゃないけど、残りも必ず返します!本当に……本当にありがとうございました!」
きっといつどこで桜場と再会しても手渡せるようにと、常に準備していたのだろう。
桜場が少しくたびれた封筒を受け取ると、見た目よりもずい分と重く、大きく感じられた。
地下獣宴から脱走する際ありったけのファイトマネーを懐に突っ込んできたため当座の金には困らず、見当たらないキャッシュカードについては後回しにしていたのだが、
「そうか……あの時、雅斗君に渡した封筒の中に、札と一緒にカードも入れちまってたんだな」
と、阿窟の高級車に乗せられた晩の出来事を鮮明に思い出す。
最初のコメントを投稿しよう!