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格好悪いなんて思うことも忘れ、雅斗が見ず知らずのスーツの男に今までの出来事を一気に話し終える頃には、涙が乾いて嘘のように気持ちも落ち着いていた。
「……なるほどね。だったら君がこういう理由で自殺したなんて桜場さんが後で知ったら、人情のある彼は自分を責めちゃうんじゃない?」
スーツの男は、桜場が存在しているという前提で言ってくれたのだが、
「でも、上司も同僚たちも桜場なんてこの会社にはいないし知らないって……記憶が混乱してるなら病院行ったほうがいいんじゃないのか?とまで言われて……」
と、肝心な雅斗のほうが自分の記憶に不安を感じ始めてしまっているため、表情が曇ってしまう。
「そうだ、キャッシュカードは?」
「会社でこれを見せたらどこで盗んだんだって皆から疑われて……銀行に持って行ったら個人情報は教えられないって追い返されて……俺、警察は苦手だし……」
その時のくやしさを思い出しているのか、雅斗がガンガンと橋の手すりの下を蹴り飛ばした。
「じゃあ、最後にもう一回聞くけど、ここで僕に教えてくれた君の話は全部『本当』なんだよね?ドラッグもやってないんだよね?」
「当たり前だ!俺は桜場さんにでっかい恩があるし、あの人ともっと一緒にいたかったんだ……それにドラッグをやる奴なんて最低だ!」
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