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そんな雅斗の様子をじっと見ていたスーツの男が、静かな口調で断言した。
「だったら簡単なことさ。君の話が『本当』なら、それ以外が全部『嘘』なんだよ」
「…………俺の話以外が全部?全部、嘘だって?」
雅斗の目が皿のように大きく見開かれて、激しいショックを受けたことで小刻みに震え出した。
「なんだよそれ……一人や二人ならともかく、まさか会社にいる全員が同じ嘘を吐くなんて、そんなこと考えもしなかった……クソッ!あいつら許せねぇ!」
「落ち着いて。そこまで口裏を合わせて用意周到に嘘を吐くくらいだから、正面から追及したらもっと嘘で固めてくると思う。騒ぎになれば桜場さんの命に関わるかも知れない」
「桜場さんの命に……!一体なにが起こってんだ?」
「それは僕にも分からないけど……。とりあえず何か理由をつけて、その建設会社は早く辞めたほうがいい。君まで『存在を消される』かも知れないからね。他に出来ることは、桜場さんが戻ってくる日まで君が生きていることかな。借りたお金と彼のキャッシュカードを返したいんだろ?」
「……よく分かった。俺、アンタの言う通りにするよ」
自分が今すべきことが明確になった雅斗から、死の影は完全に消え失せていた。
「周囲に惑わされないで、自分を信じて頑張ってね」
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