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「あっ……ありがとな!アンタもデート頑張れよ!」
雅斗の大きな声に近くを歩いていた数名が振り返る。
「ははっ、ありがとう」
と、困ったように笑ったスーツの男の顏は、しっかりとした足取りで去って行く青年が視界から消えると同時に、かつて捜査二課で活躍していた元刑事のものへと変わっていた。
「……はろう建設か。あの会社は確か波老組のフロント企業の一つだ。ヤクザが関わっている建設会社に勤務する土木作業員が誘拐された?後輩に生活費を袋ごと貸したぐらいだから、闇金が絡んだトラブルってわけじゃなさそうだけど……」
先程の青年の話によると、桜場という男性は労働により鍛えられたがっしりとした体格であったにも関わらず、抵抗する様子もなく連れ去られたという。
「凶器を突き付けられて、脅されていたのだろうか?」などと考えながら、無意識に内ポケットの煙草に伸びかけていた手を慌てて止める。
「おっと!現在は喫煙場所が厳しくなったから、気を付けなきゃね……って、あれ?優羽君!いつ来てたの?」
「お二人のお話しが聞こえて……深刻そうだったからお邪魔するのも悪いかなって、すぐそこの街灯の隣りに隠れていました」
と、いたずらっぽく笑う。
そんな13歳年下の恋人に見とれそうになりながら、慌ててカギヤが謝った。
「そ、そうだったんだ!気を遣わせちゃってごめんね。たまたまこの場所にいた青年だったんだけど、なんだか物騒な話で盛り上がっちゃって」
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