【03】消えた殺人鬼

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 カギヤは店員に案内されながら、小さな提灯が柔らかく照らす廊下を進んだ。  繁盛店に相応(ふさわ)しく扉の閉められた各個室の中から客の気配はするのものの、会話の内容は聞き取れないため防音になっているようだ。  ある個室の扉の横にあるインターホンを店員が押して来客を告げると、室内から「どうぞ」と落ち着いた男性の声が返された。  カラカラと木製の扉が横に開かれ「お疲れ様です」とカギヤが挨拶すると「よぉ、お疲れさん」と軽く右手を上げられる。  ゆるくウェーブのかかった黒髪を後ろに流し、綺麗に整えられたあご髭の似合うこのダンディな先客こそ「96・アザミ班」を束ねる班長、アザミであった。  身長は180弱、年齢は40歳になるが、脱いでハンガーにかけている仕立ての良いスーツの上着を着用しても鍛えていることが分かるほど、厚みのある立派な体格をしている。  ただし特にボリュームのある胸は岩のような胸板というよりも、思わず顔を埋めたくなる柔らかな巨乳という表現がふさわしい。  余裕を感じさせるゆったりとした仕草からは成熟した大人の色気が漂っており、低く響く艶やかな声と巧みな話術には男女問わず魅了されるだろう。  さらに精鋭「96」の中でも演技力に()けたハニートラップの名人として有名なアザミには、それらに加えて最強の武器が備わっていた。  一般的な人間にはない「特殊なフェロモン」である。
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