【03】消えた殺人鬼

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「いや、こちとら少しでも情報が欲しいところだったんだ。それっぽい情報は集まったんだが……まぁ、通常の手段で警察が解決できる案件(ケース)だったら、非合法な俺たちが動く必要なんてないからな」  今回のアザミの任務は「消えた快楽殺人鬼を捜し出すこと」であった。  警視庁は隠すつもりがないと思われる証拠の数々や目撃証言から、三件の強盗殺人事件の真犯人と断定した鮫尾(さめお)という27歳の男の行方を追っていた。  どの犯行においても凶器は使われておらず、強盗とはいうものの現場に残された痕跡から素手による快楽殺人が主な目的であり、そのついでに現金のみを盗んでいると思われる。  しかし指名手配されて一ヶ月を過ぎても鮫尾の消息はまったくつかめず、まるで神隠しにでもあったかのように彼の足取りはふっつりと消えてしまったのだ。  あまりの進展のなさに捜査関係者の中にも「あいつは海外へ飛んだか、逃げ切れないと観念して命を断ったのでは」と考える者が現れ始め、最初のうちは鮫尾の話題で大騒ぎしていた各テレビ局も、それほど知名度のない芸能人の不倫騒動を延々と引っ張る通常運転に戻りつつある。  そうやってまるで砂時計の砂が落ちるかのように、少しずつ世間の記憶から鮫尾という凶悪な男が現在も逮捕されていないことへの危機感が抜け始めていたのであった。
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