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そんな桜場を20歳の雅斗がにらみつけた。
「余計なことを……警察呼んじゃったんすか?」
「ん?呼んだほうが良かったかい?」
どうやら通報は演技だったらしい。
雅斗は途端にバツが悪くなり、ぼそぼそと詫びた。
「……あ、いえ、すんませんす、せっかく助けてもらったのに。騒ぎになったら、その、俺、会社に居づらくなるんで、つい……」
十数件断られた後、ようやくはろう建設に就職が決まったものの過去に暴力沙汰を起こしていることなどから「くれぐれも警察に関わるようなトラブルは今後起こさないように」と、採用される際に釘を刺されていたのだ。
「気にしなくていい、誰にだって事情はあるさ。とりあえず移動しよう」
桜場は気分を害した様子もなく雅斗に手を貸して軽々と立ち上がらせると、遠巻きに出来始めた人垣をわけてその場を後にした。
「……痛っ!」
雅斗が居酒屋の冷たいおしぼりを顔にあてると、複数の傷が同時に染みた。
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