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しかし雅斗は、桜場の親切には何か裏があるんじゃないかと疑ってしまった。
彼はそうやって他人を信じないことで、自分を守って生きる方法しか知らない青年だったのだ。
「どうして、こんなに親切にしてくれるっすか……」
「同じ職場だろ?困った時はお互い様さ」
「だって、おかしいじゃないっすか。クズみたいな俺を助けたって、桜場さんには何の得も……」
「自分のことをクズなんて言うんじゃねぇ!」
突然、空気を震わせるようなドスの利いた低い声で一喝した桜場に驚き、雅斗は言葉を途切らせて目を見開いた。
店内もシンと一瞬で静まり返ったが、桜場が周囲に謝罪を表すかのように軽く頭を下げると再び賑やかになっていく。
そして先ほどの声は別人だったのかと疑いたくなるほど、桜場の口調も穏やかなものへと戻っていた。
「あ、いや、すまない。あんたの年齢の頃の俺のほうがよっぽどクズだったからさ。他人から奪うんじゃなくて、ちゃんと自分の力で働いて稼ごうと頑張っている雅斗君はちっともクズなんかじゃない。そう言いたかったんだ」
熱いものがこみ上げてくるのを感じながら、雅斗はなんとか声を絞り出した。
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