【00】プロローグ

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「桜場さん……すげぇ嬉しいっす。そんなふうに面と向かって良く言ってもらえたの生まれて初めてなんで。でも以前の俺は……今日俺をボコした三人組と同じだったんすよ」 「同じ?雅斗(まさと)君も一般人(カタギ)因縁(アヤ)つけて金を巻き上げてたのかい?」 「いえ、さすがにそれはカッコ悪いんで……。俺の場合は、調子こいてる同類(ワル)だけ狙ってたっす。でも暴れてたってのは同じっことっすから、きっと自業自得っすよね」  と、雅斗がうつむく。 「そうかい?喧嘩する気のない相手への一方的な暴力と、自分の意志でツッパらかってる不良同士の暴力沙汰は全然違うと思うけどな」  そう言いながら桜場は、隣りの椅子に掛けていた上着のポケットから銀行名の入った封筒を取り出した。 「今日は給料日だったからさ、俺も帰る途中でATMに寄って生活費を引き出したんだ。これ、持って行きな。余裕が出来たらその時に返してくれ」 「で、でも……それじゃ、桜場さんが……!」 「俺は独り身で特に派手な趣味もないし、ギャンブルも競馬(うま)を時々くらいだから金は地味にたまるんだ。これをあんたに貸したからって、すぐ生活に困るなんてことはない。安心しな」  しばらくぼんやり焦点の合わない涙目で桜場を見つめていた雅斗は、震える両手を封筒に伸ばすとテーブルに額をこすりつけるほど深く頭を下げた。
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