570人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あっ……ありがと……ございます……助かります……ホント……助かります……俺、ホントはどうしようって……ありがとうございます……」
と、顏を伏せたまま涙声で繰り返す雅斗の姿を、桜場は懐かしそうに見つめていたのであった。
最悪な日だと思っていたのに、まさか最高の日になろうとは。
雅斗は人間社会における温かさ、優しさ、感謝という今まで無縁だった気持ちを今夜初めて知ったのである。
さらに「一日でも早く、借りた生活費を貯めて桜場さんに返したい」という目標が出来たことによって、仕事に対する張り合いも生まれた。
常に孤独であった雅斗の日常が、たった一人の人物と出会ったことによって大きく変わったと言っても過言ではないだろう。
「あ~ぁ失敗した!つい俺の話ばっかり聞いてもらって、桜場さんのこと何も聞いてねぇや……まぁ、明日も会社で会えるからそう焦らなくても……でも、もう少しだけ……一緒にいたかったな、なんて……」
と、ファスナーの付いたポケットの上に手をあてて封筒をそっと押さえる。
その時、何か硬い物に触れたような違和感に気付いた雅斗は、歩道に立てられている大きな看板の陰に身を寄せると、周囲に人がいないことを確認してから慎重に封筒を取り出した。
すると受け取った時は感極まっていたため気付かなかったのだが、中に入っている札の間にキャッシュカードが挟まっているではないか。
最初のコメントを投稿しよう!