【19】裏切り者

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「強さってのは、力比べだけじゃねぇと思うけどな」 「アズミ様……」  背の高いアザミを、モズが見上げる。 「弟のために……例え血縁者であったとしても、他人(だれか)のためにそこまで自分を犠牲に出来る人間なんて地上にもそうはいねぇよ。アンタは情けないんじゃない。まだ人の情が残っていたから地獄が生きづらかったのさ」  と、お辞儀をするように唇を重ね合わせてから、ゆったりとアザミが微笑んだ。 「世話になったアンタへの餞別(せんべつ)だ。弟さんの無事も祈ってるぜ」 「……貴方という人は、私のような者にまで慈悲を……」  涙をこらえながら呟いたモズは、(あるじ)を裏切り(あや)めてしまった罪深い両手のひらをアザミの頬にそっと添えると、 「(うたげ)の最後に私を信じてくださって……本当にありがとうございました」  と、背伸びをして不器用な口づけを返した。  それからアザミをトンネルの中へと誘導し、迷うことなく外から蓋を元通りに閉めたのである。
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