霞み

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 今まで歩いていた農道の脇には見渡す限り田んぼが広がっている。  その青々としている稲に太陽の熱があたりだすと、しだいに周りに霧が立ち込み始め、瞬く間に私たちの周りを取り込んでいった。  「うわぁ! 凄い、なんか雲の中にいるみたい」  朋絵が嬉しそうに腕を伸ばしては霞みを取ろうとしている。  この霧に朝日があたると、オレンジ色の光に見える。  それはとても幻想的で、ひんやりとしていて気持ちの良い世界だった。  急激な熱に対し、稲たちは蓄えている水分を葉から出すことで、熱に対応していると私は聞いた。  その稲が周りにこれだけあると、霞みの量もそれに比例する。    「そう言えば、野球部の山岸(やまぎし)くん、朝練のために早く家を出てグラウンドに到着したら、眼鏡に水滴いっぱいついたって言ってたけど、これが原因かな?」  「うん、たぶんね。 だって私たちの服も少し湿ってきてるでしょ」  水分を含んだ服は少しだけ肌にはりつく、髪の毛もしっとりとし額や頬に絡んできた。  それでも不快感はまったくない。 涼しくてむしろ気持ちが良いくらいだ。  私はこの霧を胸いっぱいになるまで丁寧に吸い込んでいく。  「うーん! 美味しい!」  隣で必死に霞みを捕らえようとしていた朋絵も、私のマネをしてみる。  「はぁー…。 なにこれ、凄く新鮮」    この水分を含んでなのか、それとも感動してなのか、彼女の瞳も潤んでいるかのように、朝日が反射している。    
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