アマリリス

1/1
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

アマリリス

午後の授業は自分を俯瞰で見ているように後ろの久瀬が気になって仕方がなかった。 終始首元にナイフを突き立てられているようで居心地が悪い。 最初に目が合った時に感じた感覚はなんだったのか。 あの時に感じた普通では決して交わることのない線が交わった感覚。 放課後が待ち遠しい。 時間が過ぎることを望めば望むほど酷く退屈な小説を読んでいるように時間は進まない。 たった3時間が途方も無い時間に感じた。 帰りのHRが終わると彼女から話しかけてきた。 「篠崎さん、教室じゃなんだからどこか違う場所でお話ししない?」 「わかった。適当なカフェでいい?」 「うん。この辺りあまり詳しく無いから任せるよ。」 私が他人とどこかにいく。 そんな会話をしただけでクラスはざわついた。 面倒なことにならないうちに教室を出て駅前に向かう。 久瀬との会話はなかった。 互いに話しかけてくることはなくカフェに着いた。 普段カフェなんて行かない。 薄暗く西海岸風の装飾が施された店内は明るさとは真逆で雑音で溢れている。 カフェに行かない理由は、お金がないとかそう言うわけではないが人混みの中にいるのが苦手だった。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 メニューを見ても半分以上は内容が理解できない。 無駄に長いカタカナの羅列。 普通の女子高生はこれを理解しているんだろうか。 「カフェオレで。」 「私も同じもので。私が誘ったんだから出すよ。」 そう言って久瀬は私の分まで払ってくれた。 見た目どおりいいトコの娘なのか? 慣れない優しさがむず痒い。 席に座りしばらくは沈黙が続いた。 「ねぇ、篠崎さんって呼べばいいの? それともエマでいい?」 正直呼び方なんてどうでもよかったが内情を知られている相手に篠崎と呼ばれるのは違う気がした。 「エマでいい。ゆうきでいいでしょ?」 「うん。久瀬って名前嫌いなの」 久瀬と発する時少しだけ声色が変わった。 怒りか憎しみか、マイナスの感情がこもったような音だった。 「ねぇ、これエマでしょ?」 ゆうきはスマホの画面を見せてきた。 一家惨殺。警視庁は連続殺人と見て捜査本部を本庁に設置。 流石に動いたか。 想定内ではあるが動きにくくなる。 どこまで調べがついているかもわからい。 しばらくやめるか? 「やめないよね?ていうか、やめれないでしょ?」 心を読んだような目で私を見つめる。 「その人を見透かしたみたいな言い方ムカつく。」 それを聞いた勇気はふっと息を漏らす。 「だってわかりやす過ぎるから。顔に出てる。」 今までまともに同年代と話して来なかった分気づかなかった。 思っているより大人になりきれていないらしい。 「それで?どうするの?」 「しばらくは様子見。それより、そんな話がしたくて誘ったの?」 ゆうきの顔から先ほどまでの柔らかい空気が消えた。 たった一言で雰囲気が一変する。 面白い。 「私の話がしたくて。あなたと違って私のはニュースにすらなってない。」 ああ、そっち側なんだ。 「自分のしたことを認知されたいわけ? そしたら私とは目的が違う。」 快楽目的か。一瞬でも面白いと思った私がバカだった。 「違うよ。私が殺したのは家族。」 平然と並べられた言葉に思考が止まった。 さすがに予想の斜め上を行かれた。 嘘の匂いはしない。 「頭真っ白ね。隙だらけだよ。」 私の頬を優しく撫でる。 脊髄に電流が走り反射的に振り払う。 「嘘だよ。聞いてくれてありがと。じゃあまた明日。」 そういうと、そそくさと帰ってしまった。 危険だ。 あの女は油断できない。 秘密を共有したもの同士、私を売ることはないだろうがいつこちらが摘まれるかわからない。 落ち着くためにゆっくりと瞬きをする。 ねぇ、私たちの気持ち少しわかった? 怖いでしょ? その感情はもう拭えない。 足元に転がった生首たちは笑っている。 「死ぬことなんて怖くないよ。私は自分が死にたいときに死ぬの。死にたくなる前に殺されないようにしないとね。」 私たちに理不尽な死を与えたくせに。 生首たちは闇に隠れていった。 ひとまず情報収集だ。 ある程度警察の動きが分からなければ動けない。 あいつに頼るか。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!