ルドベキア

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ルドベキア

「尾崎さん!情報来ました!」 "2ヶ月で4件、殺害方法は全て刺殺。 しかも全て頸部を刃物で切りつけられた痕がありこれが致命傷になっている。 一口に切りつけたといっても頸部への致命傷の与え方がそれぞれ異なる。 頸動脈を片方切断したものから両断したもの。" "さらには第一頸椎と第二頸椎の間を背後から突き刺したものと、10人全て違う致命傷の与え方をしている。" 素人レベルでできる殺害方法の範疇を完全に超えている。 特殊部隊でも実行不可能レベル。 害者にも共通点は未だ見当たらない。 「クソが。」 尾崎は資料を睨みつける。 「尾崎さん。怖いっす。」 オールバックの強面がガンを飛ばす。 「原田よぉ、モブ顔のやつは発言もモブレベルかよ。もうちょい気使ったこと言えねぇのか?」 やり場のない苛立ちをぶつけられた原田。 罵倒されることに慣れすぎたのか1ミリも傷つかない。 「尾崎さんみたいにハードボイルドの具現化みたいな顔じゃない方が得なこと多いですよ。」 「お前みたいに舐められるよりマシだ。現場もう入れんのか?」 今度は原田を睨みつける。 「鑑識が調べてもなんもわかんなかったみたいですよ?侵入経路すらあやふやらしいです。」 "4件の現場で一致していることがもう1つある。 侵入経路になりうる窓や扉が全て開けられていて、その全てに侵入痕がある。 足跡は全て一致していて家中を歩き回っている。" 「現場の空気ってもんがあんだろ。行くぞ。」 「すみません、ちょっと待ってくださいね。今いいトコなんす。」 こんなときにゲームとはいい度胸だ。 最近の若いやつは緊張感がない。 この空気が捜査を遅らせる。 「またゲームしてんじゃねぇよ、早く行くぞ!」 原田はすぐに立ち上がり小走りで尾崎を追った。 「はい、車回しますね、」 この事件が素人の犯行でないことは殺し方から明白だがなにかが引っかかる。 なんだ? ふと窓に目をやると初夏の太陽が沈みかけていた。 現場に向かうときに夕焼けとは嫌味なもんだ。 薄い雲から抜けた光が赤黒く見える。 惨劇を連想させるような色。 犯人が俺たちをあざ笑っているようだ。 「クソが。」 車に乗り込むと直ぐにタバコに火をつける。 考えすぎた。いつもはうまいタバコが不味く感じる。 「尾崎さん!車内禁煙です!」 原田は慌てて窓を開ける。 「知るか。考え事には必要なんだよ。」 現場は薄気味悪い空気だった。 前の3件もそうだったが家中歩いた割には荒らした痕跡はない。 殺害現場となったであろう部屋には血痕が残っていない。その影響なのか部屋はまだ生活の空気が残っている。 「このソファーに2人とも座った状態で寄り添ってるなんて、皮肉ですね。首切られてるのに服以外汚れてないですし。どういうことだと思います?」 「殺人鬼の考えることなんかわかってたまるかよ。近所の人間に聞き込み行くぞ。」 「了解っす。僕は町内当たってきます!」 そういうと原田は勢いよく出て行った。 犬かあいつは。 ここまで徹底して痕跡をわからなくしている犯人が他人に見られるようなヘマをするとは思えないがゼロじゃない。 現場を見れば見るほどわけがわからなくなる。 まるで底なし沼に引きずり込まれるようで底が見えない。 普通の連続殺人なら事件が起きるほど見えてくるものがあるものだがこの事件に関しては真逆。 反抗を重ねるほどこっちの身動きが取れなくなる。 「クソが。」
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