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佐伯課長には噂が絶えない。 同性愛者で、イケメンマッチョの彼氏がいるだとか、亡くなった恋人を忘れられず未だ独身だとか、遊び人で女性関係が激しく取っ替え引っ替えだとか、でも気分屋で難攻不落だとか…… 全て百間さんに聞いたことだけれど、どれも社内では有名な話らしい。 スッとした爽やかな甘いマスクに、目立つほどの長身ではないものの、スタイルの良い体は、細マッチョだという噂。32歳の若さで、本社の課長になったというのも、我が社では前例のない昇進だったらしい。加えて、それを鼻にかけることなく気さくな性格で、部下の面倒見がいいと評判だった。 そんな完璧過ぎる課長は、今年38歳になるというのに、独身で、結婚歴もない。特定の彼女がいるという話も聞かないから、社内外にファンが多く、独身最後の砦と騒がれる存在だった。 なのに、なぜ結婚しないのかという理由なんて、みんなが興味関心を寄せる話題であり、みんなの喰いつきがいいから、百間さんみたいな歩く週刊誌的な人にとっては、話したくなる話題なんだと思う。 そんな需要と供給の合致で、噂が絶えなくなるのは当然の事だろう。 いろいろ言っても、私から見れば、あえて結婚しないだけで、きっと40過ぎて、10歳も20歳も歳の離れた若くてかわいい人と電撃結婚なんてするんだろうと思う。 そう思いつつも、下世話だと思いながら耳を傾けてしまうんだけど…… 「亡くなった恋人説はどうなったんですか?」と、心に浮かんだ疑問を百間さんに投げかければ、「それはね……」と得意そうに話し出す百間さん。 以前に、府中の方の霊園に、花束を持った佐伯課長がいたという噂があって、その花がひまわりだったと……。いつになく切なそうな表情で、1人でお参りしていたという。あれは、親戚の墓参りに来てる雰囲気じゃなかったと。 そこから、佐伯課長は最愛の恋人を亡くし、傷心で独り身だという噂が流れるようになった。百間さんの今回の話が本当とすれば、その話はウソだったということかと思い、質問する。 「亡くなった恋人が女性だったとは限らないじゃない」 「そっ、それは……」と言葉に詰まる美桜ちゃんに代わり、「そうでしょうけど」と続けると、「ねっ」と自信ありげな百間さん。 そして、「亡くなった彼の事を思って長年一人だったけど、やっと新しい恋が始まったのよ」と、しんみりと百間さんは続けた。 「でも……」と反論しようとして、後が続かなかった美桜ちゃん。辻褄は合うだろうと言わんばかりの百間さんは、自分の話はあくまで過去も含めて全て真実だと言いたいようだった。 たしかに、話としてはあり得ることだが、流石に苦しくないかと心の中では思った。そんな私の様子に気づいたのか、百間さんは、「えっ、あれ?」と慌てた様子。 「いやいやいや……、なんで納得しないかなぁここで」と、逆に私たちの反応に納得出来ない様だ。
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