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私の少し前を歩く佐伯課長は、「昼休みに悪いな」と、一応謝ってくる。美桜ちゃんに言わせれば、爽やかな笑顔なんだろうけど、私にはそんな風には見えない。 「本当ですよ。楽しく団欒してたのに……」と、冗談交じりに嫌味を言う。 私は、あまり佐伯課長の事が好きではない。 「楽しくねぇ……」 語尾を上げた含みを持った言い方で、佐伯課長は返してくる。 こんなものの言い方も、気に触る。なんか、人を見透かしたような、自分は何でも知っているかのような、上からのものの言い方が。 常に先を見据えていて、計画的に行動して、何でもそつなくこなして、その上いつも余裕ありげに過ごしている。 自分は、パーフェクトなくせに、相手にそれを求めるわけでもなく、周りの目を気にして計算高く立ち回っているように見える。一緒にいて付け込まれない様にと、こっちまで緊張してしまう。 それに、親しみやすいような雰囲気を醸し出しながらも、一線は引いていて、自分のテリトリーを守りながら、他人との距離感は保っている。決して自分の素を見せないところも、なんだか好きになれない。 なんとなく鼻に付くと言ってしまえば、単なるひがみにしか聞こえないんだろうけど。 こんな風に思ってしまうのは、百間さんから聞いたうわさの影響もあるのかもしれないが……。 今から十年ほど前に、うちの会社は持っていた自社工場を売却することになった。 元々は、輸入家具を扱うところから始まった会社だが、創始者である先代の社長が、自社製品も作りたいと自らの故郷である仙台に工場を構えた。 北欧風のデザイン性のある家具は、それなりに人気があって、しばらくは上手くいっていたようだが、どうしても海外製のものにコスパでは勝てず、国内の工場は手放し、海外の工場へ委託することになったからだ。 その時に、大規模なリストラを決行することになり、その実行部隊として動いたのが佐伯課長だという話だ。そして、その功績により異例の出世を果たしているという事らしい。 人当たりが良いように見えて、実は冷血な人みたいだから気をつけた方がいいよと、営業三課へ配属が決まった時に百間さんに忠告されたのだ。 あくまで噂話だし、話半分に聞いていたつもりではあるが、佐伯課長を見る私の目に全く影響を与えてないとは言い切れない。
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