第4章:死が終わりって誰が決めたの? 仏教の理念では死はサイクルの一部だよ。

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第4章:死が終わりって誰が決めたの? 仏教の理念では死はサイクルの一部だよ。

 サワコさんに脱毛してもらった次の日、勉強を見てくれる水澤先生が家に来た。  ロクさんの知り合いだから中年のおじさんだろうと思っていたけれど、水澤先生の見た目は若く自己紹介の時に24歳だと言った。  また下の名前は慶なので、そう呼んでと優しく笑いかけてくれた。  慶さんはスカイブルーの半袖シャツに濃紺のスラックスを着て綺麗な顔にリム無しのメガネをかけていた。端的に言ってすごいイケメンだった。  サワコさんがお茶を出していた時に「慶くんはロクちゃんが成田空港でスカウトしたの。でも芸能界には興味ないみたい。カッコいいのにもったいないわよね。」と教えてくれた。  「俺みたいなレベルじゃ芸能界じゃ太刀打ちできませんよ。でもさすがロクさんだ。美海ちゃん、すごく可愛いですね。」  私は真っ赤になった。施設でも容姿を褒められる事は多かった。でも目立ってイジメの対象になりたくないと思い、いつも下を向いていた。  ホームスクールはほとんど慶さんの授業だった。私は徐々に彼に打ち解け苦手な科目を相談したり、道徳的な授業も持つようになっていた。  慶さんはロクさんに成田空港で会うまでは東南アジアを放浪していたらしい。その時に私より幼い子が教育を受けられず生涯ハンデキャップを負ったまま生活しているところを見て教育側の仕事に就きたいと思ったそうだ。  「そのうち正式に就職するつもりだけど、俺はロクさんのファンなんだ。こんな形で近くで仕事ができると思っていなかった。しばらくは彼の近くにいたいな。」と嬉しそうに慶さんは笑った。  「ロクさんって何をしている人なの?」と私が質問すると慶さんは「知らないの?」と少し驚いた顔をした後、説明してくれた。  「昔は大手芸能事務所の社長だったんだ。5年前に正式に引退して次期社長に全ての権限を譲っている。事務所の社長といっても会社のマネージメントだけではなく、タレント育成や映画のキャスティング業務もやっていたんだ。映画監督経験もあるから演技指導もできるはずだよ。」  「そうだったんだ。どうして辞めちゃったのかな。」  「年齢的なものだと思う。だけど美海ちゃんをスカウトしたって聞いて驚いたんだ。小規模でまた再開するのかもしれない。」  「私が女優なんて想像できない。」  「俺にはできるよ。美海ちゃんからは底知れぬ潜在能力を感じる。って俺なんかが言ってもピンとこないだろうけど。」    慶さんはそう言った後少し照れたようで後頭部を掻いた。私は嬉しくなりもっと慶さんの事を知りたくなった。  「慶さんって兄弟いるの?」  「ああ、弟が一人。13歳離れているから、美海ちゃんより年下だな。」  「いいね。私の兄弟は死んでしまった。」  慶さんは、少し目を細めて私の口元あたりを見つめた。私の生い立ちはロクさんから聞いているはずだ。  「美海ちゃん、輪廻って言葉知っている?」  「うん。なんとなくだけど。死んで生まれ変わるっていうやつだよね。」  「そう。キリスト教と違って仏教では死は終わりではないんだ。生と死は輪になって繋がっている。大抵の人はそのサイクルの中を回るんだ。」  「じゃあ、私の兄弟は生まれ変わる?」  「その可能性が高いね。俺たちだって前世で兄弟だったかもよ。今は将来有望の大スターとそのしがない家庭教師だけど。」  「しがない家庭教師なんて…。でも素敵な考え方ですね。教えて頂きありがとうございます。」
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