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閑話~アルディード~
「そっかぁ!じゃあリィの趣味の出来上がりを王子様にあげる~!」
そう言って俺より三つ年下の幼い令嬢が、柔らかい塊を押し付けてきた。
…見た目は幼いんだけど…な。
«あの女、結構中身も根性もオバサンだぞ?»
と魔王が囁く。
勿論女性を
"オバサン"
と呼んではいけないことは解ってる。
魔王封印の長い歴史の中でいろいろな封印者がいて、その記憶が流れ込んでくる。
そして
"オバサン"
などと呼びたもうた強者は、すべからず呼んだ相手に
愛のムチ
をもらい、恐怖と激痛の叫びを上げているのだから。
それに…さすがルテシー辺境伯爵夫人マリアナの娘だ。
深紅の巻き髪、シトリンのような透明な黄色…いや光の反射がたまに金に見える瞳。
"おとなしく"してさえいれば、きっと伯爵夫人と同じような美女になるに違いないけど…断言するぞ、ムリだ!
凄まじく、ド根性あるのは噂で知ってる。
っていうか…中身"オバサン"って、どういう意味だろ?
手に持たされた微妙に温かい柔らかい塊。
リリティーゼ嬢の趣味から考えると、調理済み食べ物。
小さいからルテシーのコックに手伝ってもらったんだろうけど。
毒が入ってて俺が死んだら魔王が蘇るけど…まぁ良いか。
生きてても詰まんないし。
それになによりルテシー辺境伯とリリティーゼ嬢の兄の目が怖い。
捨てたら伯爵はともかく、アノ兄はヤバい。
リリティーゼ嬢を扱き下ろしたどこぞの貴族の息子(当時11歳、ちなみに令嬢の兄は6歳)を闇討ちして下僕にしたらしい、と囁かれている。
闇討ちされた、とされる本人はこの事を聞かれると、盛大にガタガタ震え汗と涙をダラダラ流して否定するらしいけど。
魔王を封印してるというだけの自分じゃあ、闇討ちされるのは勘弁だ。
俺は紙を剥いて噛んだ。
!
周りが慌てているが、どうでもいい!
なんだ、コレ~?!
すんごく美味いんだけど!!!
なんだよ、このフカフカ柔らかパン。
しかもほんのり甘い…。
この茶色のソース、知らないこんな味。
何よりこのクリーム色のトロッとしたヤツ、病みつきになりそうだ!!
肉も硬くない、美味~い!!!
«お、おい!それ以上食うんじゃねぇ!意思を少しずつ削って復活できるように頑張ってきたのに…!あ、封印が…!!»
魔王がなんかゴチャゴチャ言ってるが、知ったこっちゃない!
辺境伯にレシピ貰おう!
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