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一方、八雲は病院の待合室で養父に連絡を取っていた。
恵愛の緊急手術が行われているが、わざわざ手術室前で待つことはしない。
スマートフォンからメールを打つ。
内容は先日の薬物の件、そしてジョージという研究者に心当たりがないか、だ。
返信は割とすぐに来た。
薬物の件については警視庁からも連絡が入り、調査を続行中だという。
『園芸用のヒナゲシにケシのアルカロイドを持たせた品種を開発したらしいと聞いている。園芸種と見分けがつかなくては対応が難しいだろうな。とりあえず、現物を見てみたいので探して貰うことにした』
今回の調査で興味を持ったのか、綾瀬の反応は良く、研究に集中しているようだ。
気まぐれな彼はやりたい研究中心になってしまうため、出向先の研究機関でも扱いにくいとされているらしいが、杞憂だったらしい。
マナーモードのバイブレーションが新着メールを教えた。
綾瀬からメールの続きが届く。
『ジョージという研究者だが、譲二ではないのか? ハーフかクオーターだったと思うが、日本人名だったと記憶している。遺伝子開発の研究で質問を貰ったことがあるのを覚えている。佐伯譲二……ああ、ジョージ・D・サエキ』
みしり、とスマートフォンが軋むほど握り込んでいた。
八雲はメール内にあったジョージの名前を脳内に刻み込む。
「……そろそろ戻りましょう」
気付くと手術室前を離れてから三十分以上が経過していた。
八雲は重たい足取りで待合室を抜ける。
恵愛のことも含め、問題は山積みだった。
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