第2章 奈落への誘い

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花怜は杏子と連絡先を交換していた。 sweet holicのファンである花怜だが、彼女もまた音楽活動をしている。 年も近く、共通の話題も多いことからすぐに打ち解け、仲良くなった。 「人懐っこいのが花怜の強みですよねぇ」 八雲が呟く。その横で透が苦笑している。 人見知り気味な彼女にとって、今日会ったばかりの人間と連絡先を交換するなど、考えられないことだった。 遠い目で彼女たちを見ている大人二人。 その時、事務所のインターフォンが鳴った。 「こんばんは、お届け物です!」 宅配業者の青年が段ボール箱を抱えて事務所に入ってくる。 冷蔵マークのシールが貼られた段ボールが、次々に運び込まれた。 大きいもの、小さいもの、合わせて八個ある。 「透!」 嫌な予感を覚えた八雲は、透から手袋を受け取り段ボール箱の宛名を確認する。 『さとう音楽プロダクション 気付 sweet holic ざらめ様』と杏子宛の荷物だった。 差出人は『霧崎悠人』。 「霧崎からです」 八雲が呟いたその名前を聞き、杏子は目を見開いた。 怯えた表情で、隣にいた花怜の手を握る。 「透、警察に電話をお願いします」 そう言って八雲は段ボール箱の一つに触れた。 手袋越しでも強い感情が伝わってくる。
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