第2章 奈落への誘い

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――ザザッ。 ノイズが走り、強い憎悪が八雲のなかに流れ込んでくる。 吐き気に耐えながら、何とか踏みとどまった。 誰の記憶かはわからない。 憎悪と悪意に満ちた感情だけが、絡み付くように迫ってきた。 「花怜、天宮さんと隣の部屋へ。佐藤さんもそちらにお願いします」 八雲は指示を出す。 花怜以外の二人は、やや戸惑いながらも八雲に従った。 一番小さい箱をテーブルに置く。 冷蔵されているためかひんやりと冷たい。 事務机からカッターナイフを拝借し、段ボールの蓋を閉じているガムテープを切る。 「ああ……」 段ボールを開いた八雲の口から、辛うじて溢れた呟き。 それ以上、言葉がでないのだろう。 八雲が開けた段ボールの中身は、黄色の薔薇に埋もれた人間の頭部だった。 それも、少し前にSNSのアイコンで見た顔と同じ……霧崎悠人の首だ。 息を止め、吐き気を飲み込んで、八雲はその段ボールに蓋をする。 もう、他の段ボールを開ける気力など残っていなかった。
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