141人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
第1章 追われる少女
ゴールデンウィークが終わり、世間は慌ただしい日常へと引き戻されたようだ。
よく晴れた空。風は爽やかだが、日差しが眩しい。
長袖で外を歩いていると汗ばむ陽気だった。
東京都千代田区。秋葉原駅に向って、スーツ姿の男女が並んで歩いている。
長い黒髪の女は涼しい顔をしていた。ローヒールのパンプスで足取りも軽やかだ。
彼女、天神八雲は、隣を歩く男性・有栖川透と共に、都内で開かれた学会に出席していた。
八雲は、研究学園都市内の研究所で遺伝子に関する研究を行っている。
対して透は大学病院に勤める救急科の医師だ。
二人は幼馴染みであり、恋人同士に見られることもあるが、実際は兄妹のような関係なのだ。
「花怜との待ち合わせには間に合いそうですね」
八雲がぽつりと呟いた。花怜と言うのは彼女の同居人で、生活能力が壊滅的な八雲の代わりに家事全般を担っている。
放っておくと食事も睡眠も取らなかった八雲は、花怜との同居を始めてから規則正しい生活ができるようになった。
そんな花怜と二人が待ち合わせている場所こそ、秋葉原駅だった。
花怜も所用で東京まで来ているらしく、一緒に帰るために駅で待ち合わせの約束をしている。
最初のコメントを投稿しよう!