第2章 奈落への誘い

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段ボール箱に詰め込まれていたのは、ただのバラバラ死体ではなかった。 「……死蝋(しろう)化してる?」 死蝋とは、蝋状になった死体のことだ。 腐敗菌が繁殖しない条件下で、死体の脂肪が変性して蝋状になることがある。 腐敗が進みにくく、ほどよく湿度があって温度が低い場所……土中などで、様々な条件が重なり死体が変性していく。 火葬が主流の現代日本ではあまりみられない。 「鹸化(けんか)しているのか?」 呟いたのは透だった。 八雲が怪訝そうに眉を潜める。 先程の合成樹脂といい、死蝋化といい、遺体を保存するために手を加えたようだ。 その割に、杏子に宛てて送り付けるという保存目的でない扱い方をしている。 「自己顕示欲の強い人間でしょうか?」 遺体に添えられた花といい、遺体の状態といい、送ってきた人間の『憎悪』と『執着』が見てとれる。 わざわざ段ボール詰めの遺体を送り付けてきたのは、それをより多くの人間にアピールするための手段なのだろうか。 少なくとも、猟奇事件として取り上げられることは間違いなかった。 そこに犯人の目的があるのだろうか? (この事件、一筋縄ではいかないようですね。犯人の執着は天宮さんでなく、霧崎にある気がしますし……)
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