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少女は八雲と透、二人に軽く頭を下げる。
顔を上げたときには、迷いのない表情になっていた。
「私は天宮杏子と言います」
少女が名乗ると、それまで彼女たちから少し離れていた早坂が近づいてくる。
「彼女は早坂さん。近くの警察署の警察官で、あなたが転落したときの状況を聞きたいそうです」
八雲が早坂を紹介し、杏子の様子をうかがう。
少し表情が固くなったが、話はできそうだ。
「万世橋警察署の早坂です。こちらのお二方より通報があり、あなたが突き落とされた可能性があると言うことでお話をうかがいたいのですが」
真剣な表情の早坂の言葉に、少しだけ困ったような表情を見せた杏子。
しかし、ほんの少しの間考えると、口を開いた。
「確かに私はあのビルの階段から突き落とされました。相手の顔は見ていません」
そう口にしてから、ちらりと早坂、八雲と透の三人に視線を向ける。
「あなたが落ちてきたとき、透が帽子の男の姿を見ています」
「帽子をかぶって後ろ姿だったから顔はわからないが、若い男のようだった」
透は先程自分の見たままを早坂に伝えている。
杏子の反応を見るために言ったのだが、彼女は黙って俯いてしまった。
表情は見えないが、肩が小さく震えている。
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