第1章 追われる少女

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透と早坂が戻ってくる頃には杏子も落ち着き、病院の近くのカフェに移動して話を聞くことになった。 テーブルが仕切られ、個室になっている和風のカフェは人目を気にせずに話ができる。 八雲たちと待ち合わせていた花怜も、カフェに向かっているらしい。 先程の電話で透が状況を説明し、メッセージアプリからカフェの場所を送っていた。 早坂もストーカー対策部署の女性警察官を呼んだらしい。 八雲と同じくらいと思われる年頃の女性が一緒に席についた。 「万世橋警察署の生活安全課、ストーカー対策室の片瀬(かたせ)です」 「片瀬は私の後輩で、ストーカーやDV被害を担当しています。私達二人がお話を伺います」 片瀬と早坂、二人の女性警察官が向かいに並んだため、杏子は肩身が狭そうに縮こまっていた。 彼女のとなりには八雲。そしてそのとなりに透が座っている。 個室の戸が叩かれ、注文した飲み物が運ばれてきた。 透、早坂、片瀬の三人はコーヒーを、杏子は抹茶ラテを、そして八雲はあずきミルクティーを頼んでいた。 八雲がスプーンでカップの底に溜まったあずきを混ぜ、ミルクティーを口に運ぶ。 紅茶の香りと共に、あずきの上品な甘さが広がった。 「付近の防犯カメラを確認しながら、天宮さんを突き落とした男の行方を追っているのだけど、まだ見つかっていないようなの」 早坂が口を開く。防犯カメラに杏子が突き落とされた瞬間が写っていれば良かったのだが、外階段には防犯カメラは設置されていなかった。 確固たる証拠がなければ、警察としても動きにくいのだろう。 誤認逮捕に繋がるような迂闊(うかつ)なことはできないらしく、証拠固めに慎重なようだ。 ただ、透の証言と杏子本人の証言から、突き落とされたことはほぼ間違いないと見られている。 そもそも、階段には手すりがあり、故意に突き落すなどしない限りは簡単に落ちたりしない。 転落防止のために手すりの柵が高くなっているのだから尚更だ。
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