第2章 奈落への誘い

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第2章 奈落への誘い

杏子の所属する、さとう音楽プロダクションに着いたのは六時前。 陽も落ちて、街は夜の顔を見せ始めていた。 駅から程近いテナントビルにある、さとう音楽プロダクションは、『sweet holic』をはじめとしたインディーズバンドをいくつか抱えている小さな事務所だ。 杏子が電話しておいてくれたので、八雲たちは客間に通された。 「どうも、さとう音楽プロダクションの佐藤です。うちのざらめ……天宮がご迷惑をおかけしました」 五十(いそじ)くらいの男性がやってきて頭を下げる。 そして、透と八雲にそれぞれ名刺を差し出した。 どうやら彼がこのプロダクションの社長らしい。 「いえいえ。それよりも天宮さんに怪我がなくて良かったです」 答えながら八雲は佐藤に自分の名刺を渡す。 普段は持ち歩いていないのだが、今日は学会に参加したため手持ちがあった。 「ほう、研究所の主任をされているのですか。お若いのにすごいですね」 佐藤のお世辞には愛想笑いを返す。 また、透も八雲にならって佐藤に名刺を渡した。同じような反応がまた返ってくる。 「おじ様、電話した通り警察に相談しました。もしかしたら警察の人が事務所に色々聞きに来るかもしれませんが……」 「杏子ちゃん、安心しなさい。私達は君の味方だからね。もちろん、警察には協力するし、君の身の安全が第一だ」 佐藤は杏子に優しい笑顔を向けてそう答えた。 警察の介入を疎まれる可能性もあったのだが、佐藤は協力的な様子だ。 杏子と佐藤は姪と伯父の間柄らしい。 何はともあれ、無事に話が通って良かったと八雲はため息をついた。
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