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次いで、何かを力いっぱい打ち鳴らしているような音が耳を襲う。息を整えると、ドラムとシンバルの音が大音量で鳴っているのだと分かった。
隣の席を見ると、羽澄の耳についたイヤホンのコードの先が、端子をむき出しにしてぷらぷらと揺れている。
椅子から腰を浮かせて、床に手を伸ばした彼の、
「やっべ……」
小さな声が、音の隙間を縫って届いた刹那。
彼の真っ黒な瞳が、紗奈の目と同一線上に重なった。前髪の隙間から上目遣いに、一瞬だけこちらを射る。
紗奈が瞠目すると、既に羽澄の視線は違う方向に去っていた。
(今……、え?)
自然な素振りで目を前に戻しながらも、内心、大いに狼狽えていた。
教室の皆が羽澄に目を向けている。教師から注意の声が飛ぶ。
ドラムの音は、同じリズムを繰り返している。ロック調というのだろうか。流行りの歌にありそうなリズムでもあり、どこか違う感じもする。その中に、機械的な音色で短いメロディが聞こえた。
(ん……?)
なんとなく物悲しいのに、伸びやかな感じがする音の並び。
なぜか心に引っかかる。
音が止まった。
羽澄が止めたのだろうけれど、少しがっかりした。
(もう一回聞いてみたいな……)
羽澄の携帯は教師に没収され、放課後になったら取りに来るようにと告げられた。教室は、俄にざわついた。
(羽澄君、音楽聞いてたんだ)
何をしていたかの謎は解けたが、それにしては画面をタップする回数が多いような気がして、腑に落ちない。
教師が大きな声を出して、生徒の空気を授業に引き戻す。
紗奈は軽く息を吐いて、気持ちを切り替える方に自分を持っていく。再びノートに取り組みながら、ペンの色を変える時に、横目で隣を見る。
思わず吹き出しそうになった。羽澄はノートの表紙に突っ伏して寝ていた。
誰かに気付かれないように、数秒間だけ観察する。
(髪、長いなぁ。何かこだわりがあるのかな)
授業を聞かない態度は、決して褒められるものではないのだろうが、世界史の成績が壊滅的、などの噂も聞かない。
(世界史が嫌いとか、先生が嫌い、とか)
紗奈なりに理由を考えてみるが、どれも当てはまっていない気がする。
なんとなく思いついたのは、
(授業より大事、なのかな。あの音楽が)
一方の自分は、何も考えずに板書を写している。なんだかそれが格好悪いようにも思えた。
(なんか私、ロボットみたいかも)
小さく溜息をついて、もう一度右側に目を遣る。
堂々とさぼる様は、心配と呆れと、でも羨ましくもあり、思わず紗奈は微笑んでしまった。
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