6.コウとカナ

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「はぁ?」 「声、でか」  苦笑しながら小さく呟いた羽澄の顔に、 「いやいやいや」  言葉のボールを真っ直ぐに当てるように、本田は首を伸ばす。 「今は隣の席だし、ちょっと話しかけられるくらい普通でしょ」  ゆるやかに歩を進めながら、羽澄は軽く笑う。 「いや……」 「『女神』のこと好きなんだよね? せっかくきっかけができたんだから、これから……」  瞬間、羽澄は笑みを消して本田の顔を見返す。自然と、足が止まった。 「違う」  きっぱりとした言に、本田は首を傾げた。 「なにが?」 「そういう……好きとか、違う」 「『女神』?」  羽澄は頷いた。 「『女神』は、文字通り『神』だ。俺なんかが近づいたり言葉を交わしちゃいけないんだ」  真剣な顔の羽澄をちょっとの間見つめて、本田は軽く笑った。 「『神』って……。分かってると思うけど、ただの同級生だよ? コウはその辺ちゃんと分かった上で、愛称として『女神』って呼んでるんだと思ってたけど」  羽澄は口を曲げて、視線を逸らした。本田がその顔を追いかけて覗き込む。 「なに? なにかあるんだ?」  答えたくない、とばかりの羽澄に、更に畳みかける。 「そうだなぁ。コウのことだから、どうせ『嫌われたくない』とか、そんなところ?」  盛大に顔をしかめる友人に、本田はにやりとする。 「嫌われない可能性だってあると思うけど」 「違う」  羽澄が向き直った。 「俺は変人で、うまく喋れない。人の顔を見れないし、相手の感情を推察できない。知り合った人間は俺を拒否して、あるいは攻撃して離れていくんだ」 「おーい。俺はなんだい?」  面白そうに自分を指している本田に、一瞬、言葉を詰まらせる。 「カナは……。カナは、同じ変人だから」  本田が噴き出した。 「『趣味が合う』とか言おうよ!」  その様に、羽澄も口元を綻ばせた。  二人はまた歩き出す。  おもむろに、羽澄は口を開く。 「俺は、『女神』を静かに見ていたいんだ」 「んー」  本田が考えながら空を仰いだ。 「コウの言ってることは分かるよ。その人を知る前と後で印象が変わるってことはよくあるよね。その結果、離れていく人もいる。でも、それがあるから人間って面白いんじゃないの?」  羽澄は怪訝そうに眉根を寄せた。
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