ある狗の話

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梼喜には、大きな砦がある。 反乱分子はそこに立てこもろうとしているらしい。 「それで、隊長はどうしたいんです?」 「そうだな……どうしたものか」 「紅蓮隊に花を持たせた方がいいですか」 「そりゃ、王太子サマですもんねぇ」 遊撃隊の宿舎は、軍施設内にはない。 鬱金が住まう離宮の離れが、その役割を果たす。 二階の会議室にはいつもの顔ぶれ。 しかし、卓の上に置かれているのは会議資料ではなく、酒やつまみや茶道具一式だ。 まるでどこかの飲み屋のように、グダグダと情報交換が行われる。 会議らしいものと言えば、壁に貼られた地図くらいのもの。 「梼喜の物資一切を断ちますか?」 「いや、それ物騒すぎんでしょ」 「一般市民は巻き込みたくない」 「井戸枯らします?」 「同じだろうがよ!」 「王太子サマご一行に花もたせるっていうのがねえ……」 遊撃隊の面子は、ほとんどが武人ではない。 だから、戦い方も軍の奴らとは全く違う。 実家が大きい商人の者もいれば、自らが薬師の者もいる。 そこを修正しながら、使える戦法をひねり出すのが、隊長の鬱金と副隊長の仕事。 俺はワイワイと話す卓から少し離れた窓際で、話に耳を傾ける。 「敵さんの規模が、意外と大きそうなのが、難儀ですな」 「どれくらいだ?」 「聞いたところでは二個中隊」 「紅蓮隊なら、問題ない規模だが、傷をつけたくないんだろうな」 敗戦ひとつでも傷に数えられてしまうのが、常勝将軍と言われる王太子サマの可哀想なところ。 俺たちは皆、そこには同情している。 「指揮系統は、どうなってんすか?」 現場で俺とよく組む男が、ぼそりと確認する。 「指揮系統?」 「王太子軍にとりあえず出陣してもらうとして、指揮系統がもろかったら、そっちつぶせばなし崩せるかなと思うんですが」 「なるほど」 手にした盃をぐいっと空けて、鬱金は笑った。 「それでいこうか」
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